2001年に開催されたTOKYO MOTOR SHOWにATENZAと共にその存在をアピールしたRX-8が満を持して2003.4.9市場に投入された。
ここでマツダロータリーエンジン搭載車の歴史を簡単に振り返ってみよう。
以下の()内エンジン出力表示は、1985年マツダサバンナRX-7フルモデルチェンジ車よりネット表示となり、それ以前の車種ではグロス表示であった。
1967年にロータリーエンジンを搭載した世界初の市販乗用車マツダコスモスポーツ登場(110PS,翌年68年128PS版登場)、1968年ファミリアロータリークーペ、1969年ルーチェロータリークーペ(126PS)、1970年カペラロータリー、1971年マツダサバンナ(120PS)、1975年マツダコスモAP、ロードペーサー等を経て、1978年マツダサバンナRX-7(ノンターボ:130PS,ターボ:165PS)、1985年マツダサバンナRX-7フルモデルチェンジ(インタークーラ付ターボ:185PS)、1989年マツダサバンナRX-7マイナーチェンジ(インディペンデントツインスクロールターボ:205PS,∞は、215PS)、1990年マツダユーノスコスモ(2ローターターボ:230PS、3ローターターボ:280PS)、1991年アンフィニRX-7(シーケンシャルツインターボ:255PS)が登場し、FD3Sシリーズがスタートする。(1991年は、4ローターマシンMAZDA787Bが日本車初のル・マン24時間レース総合優勝を果たしたマツダにとって輝かしい年でもあった。)このFD3Sシリーズは、1996年に265PSにパワーアップ、1998年には280PSを手にし、2002年の最終バージョンSPIRIT
Rをもって完結し、FD3Sの12年の歴史にピリオドを打つことになるのである。2003年、ロータリーエンジンの歴史は、RX-8へと引き継がれ、新たなページが刻まれていくこととなった。
そしてRX-8に搭載された新世代ロータリーエンジン”RENESIS"は、2003年6月『インターナショナル・エンジン・オブ・ザ・イヤー』の栄冠を手にした。
さてスポーツカーという観点からRX-7最終バージョンSPIRIT RとRX-8 TypeS、参考としてNSX
TYPE Rを比較車としてディメンション&動力性能に着目し、以下検証してみよう。
1.ディメンション
項目 |
RX-8 TypeS
(03/4catarogue値) |
RX-7 SPIRIT R
(02/3catarogue値) |
NSX TYPE R
(02/5catarogue値) |
@ |
全長 |
4435mm |
4285mm |
4430mm |
A |
全幅 |
1770mm |
1760mm |
1810mm |
B |
全高 |
1340mm |
1230mm |
1160mm |
C |
ホイールベース |
2700mm |
2425mm |
2530m |
D |
トレッド |
前 |
1500mm |
1460mm |
1510mm |
E |
後 |
1505mm |
1460mm |
1540mm |
F |
ホイールベース/全長 |
0.61 |
0.57 |
0.57 |
G |
トレッド/ホイールベース |
前 |
0.56 |
0.60 |
0.60 |
H |
後 |
0.56 |
0.60 |
0.61 |
I |
車軸センター〜ルーフ/トレッド |
前 |
0.67 |
0.62 |
0.56 |
J |
後 |
0.67 |
0.62 |
0.55 |
注)上記F〜Jの値は、各々のcatarogue値を用いた計算値。
上記数値のG&H:トレッド/ホイールベースは、RX-7&NSX TYPE Rの数値から見ると約7%低い。
RX-8TypeSの0・56という値は、ALTEZZA(01/5data)、CALDINA(02/9data)、PEUGEOT406COUPE(01/9data)、Passat
V6(01/10data)等が同値で、これらの車は、どちらかというとスポーティーカーの部類に属する。概してこれらの車は、ある程度居住性が確保されているので、その必然性が数値に表れたと見て良い。(この値が小さいほどトレッドに対してホイールベースが長いということになる。)
ちなみにR34GTR(前後:0.56)、BMW M3(前:0.55,後:0.56)もほぼ同値であることから数値の意味がご理解いただけるのではないか?
次にI&J:車軸センター〜ルーフ/トレッド0.67については、スポーツカー度最右翼のRX-7&NSX TYPE Rと比較すると約8%大きく、重心位置に対して不利な方向であることを意味している。
ここでRX-8を弁護すれば、F:ホイールベース/全長0.61は、オーバーハングを抑えたという意味でRX-7&NSX TYPE Rよりも数値の上では有利であるといえる。(BMW3シリーズは、0.61である。)
RX-8は、スポーツカーを追求する意味において不利となるディメンション、つまり居住性を確保した中でスポーツカーとしてのハンドリングをどこまで煮詰めることが出来るのか?という難題に挑戦した車と言えよう。
2.動力性能
項目 |
RX-8 TypeS
(03/4catarogue値) |
RX-7 SIRIT R
(02/3catarogue値) |
NSX TYPE R
(02/5catarogue値) |
A:馬力当たり重量 |
5.24Kg/PS |
4.54Kg/PS |
4.54Kg./PS |
B:トルク当たり重量 |
59.55Kg/Kg.m |
39.69Kg/Kg.m |
40.97Kg/Kg.m |
C:A×B |
312Kg2/PS.Kg.m |
180Kg2/PS.Kg.m |
186Kg2/PS.Kg.m |
注)上記の値は、各々のcatarogue値を用いた計算値。
上表の各々の数値比較に移る前にロータリーエンジン13B型のPOWERの変遷を見てみよう。1973年ルーチェワゴンに搭載された13B型は、最高出力135PS(ネット換算:114.8PS)、最大トルク18.3Kg.m(ネット換算:15.6Kg.m)であり、今回TypeSに搭載された”RENESIS”の最高出力250PS、最大トルク22Kg.mと比べると最高出力で約2.2倍、最大トルクで約1.4倍もの開きがある。かつ”RENESIS”は、優・低排出ガスレベルをクリアーすることにも成功した。これは30年間途切れることの無い技術開発の継続によってのみ達成できた成果であろう。こういったユーザーを感動させる物語が、車と言う物に深い味わいを与える一つの付加価値となり得るのである。
さて、各々の動力性能の比較に移ろう。
ここで動力性能の一つの指標として、A:馬力当たり重量(Kg/PS)、B:トルク当たり重量(Kg/Kg.m)を各々掛け算した値(上表C値)に着目して見よう。Cの値が小さければ動力性能が高いと見なすことにする。実際には最大出力と最大トルクの発生回転数が異なるので、この指標には矛盾があるが、あくまで動力性能の高さを捉える一つの目安として見て欲しい。
さて、RX-8TypeSのC値312は、RX-7 SPIRIT Rの180、NSX TYPE Rの186と比べると大きく水を開けられてはいるが、実は312という数値をもっていれば、街中ではそこそこ速い車に属していると見てよい。参考にC値がRX-8TypeSの312近辺の車種を上げるとRenault Sport2.0:320(00/12data)、BMW330iM sport MT:318(01/11data)、INTE TYPE R 220PS:301(01/8data)である。これらの車種の走りを想像すれば、私の言っていることがご理解いただけると思う。
RX-8 TypeSは特別に尖がってはいないが、適度に汗をかく動力性能を有していると言える。
しかしながらピュアスポーツという観点から辛口に見てしまうと尖がった動力性能への願望、その満たされない思いがこみ上げてくるのも正直な気持ちだ。
よくスポーツカーの要件は、速さだけではないという声を耳にするが、確かに全面的に否定はできないが、速さは、スポーツカーとしての魅力的な重要な要素であると思う。私見をいえば他車を圧倒的にリードする動力性能を獲得していることは、スポーツカーを所有する一つのステータスになり得ると考える。
この様にディメンション&動力性能を追っていくとRX-8はRX-7にとって変わるマシンではなく、要するにピュアスポーツとは異なるコンセプトをもって開発された車であることが分かる。つまりスポーツカーの大衆化であって、最右翼のスポーツカーを追及するというコンセプトからは、遠い。(だが・・・いつの時代も合い矛盾した技術的課題に挑戦し戦い続ける技術屋さんの努力には頭が下がる思いだ。)
現実的には少数派であろうピュアスポーツ派だけを相手にするよりもより大衆受けする製品を開発する方が企業としてのメリットが大きいことは周知の事実である。だがここで別の角度から考えてみると、RX-8が販売台数を伸ばすことによって次期RX-7の開発費が稼げる!?となれば、ピュアスポーツ派もRX-8を静かに見守り応援するのも悪くない。少数派であるピュアスポーツ派としては、必ずや登場するであろう次期RX-7を期待を込めて待とうではないか。そしてマツダの技術屋さんのロータリーエンジンへの飽くなき欲求と情熱がピュアスポーツカー次期RX-7を大いに深化させ我々の前に登場させてくれることを期待して・・・。
エクステリア&インテリア等について
ここからは、エクステリア、インテリア等について話を移したいと思う。
さて、エクステリアであるが好みがはっきりと分かれるであろう大胆なデザインだ。個人的には冒険心に富んだマツダデザインの復活に拍手を贈りたいが、控えめな日本人?(ひとくくりにするつもりはありません。)からは敬遠されるかもしれない不安を抱かせる程にデザインのアピール度は強い。革新的なものを好む米人(ひとくくりにするつもりはありません。)の方には受け入れ易いかもしれない。
インテリアは、パッと見にはカッコ良さを感じるが、残念だがコストダウンの洗礼を受けたことを感じさせるややチープな印象も漂う。この印象を払拭する方策だがオプションの本革シート、特にブラック×レッド(ボディーカラーによってシートカラーは異なるがTypeEには標準装備)を装着されることを個人的にはお勧めしたい。(かなり印象が良くなる。)シートだが標準装備のものはシート下部からの反力がもう少し欲しい気がした。(ロングドライブ時不安?)これもオプションの本革シートの方が適度な硬質感があって好ましい。
安全装備面では、RX-8 ATグレードを除くすべてのグレードにDSC(ダイナミック・スタビリティ・コントロールシステム横滑り防止機構)が標準装着されているのは好ましい。カーテン&フロントサイドSRSエアバックシステムは、標準装備ではなく全グレードオプション設定となっている。又、走りの面ではLSDがRX-8
ATグレードを除くすべてのグレードに標準で装着される。
価格についてRX-7とRX-8を単純に比較するのはかなり無理があるのだが、あくまで参考にみてみるとRX-7TypeR BATHURST339.8万円(02/3メーカー公表価格)、RX-8TypeS287.9万円(03/1メーカー公表価格)である。RX-8TypeSには上記のDSCとBOSEサウンドシステム(9スピーカー)が標準装備されるので特に走りへの妙な拘りがある人でなければ、かなりお買い得であると思う。
このページの先頭に戻る
RX-8 ROAD IMPRESSION
試乗した車は、3グレードでまず標準グレードの4ATからスタートし、TypeE、TypeSと試乗してみた。初乗りRX-8
4ATであるが、すでにシートについては述べたが、下からの反力が不足していると感じさせるので長距離走行に不安を残す。乗り心地であるが、路面からの突き上げ感もなく極めて良好なまろやかな乗り心地であり、乗用車としてはよく出来ているが、スポーツカーではないと感じた。スポーツカーと言うにはあまりにも刺激がなさ過ぎるのだ。何事も起きないと思わせる歯ごたえのない乗り心地に4ATが拍車をかけ、スポーツカーに刺激を欲するうるさい向きにはまず不向きな車だ。ステアリングフィールもよろしくない。電動パワステの影響か?これには個体差が有るかもしれないが、中立付近が不自然に重く、尚かつそれが路面とのインフォメーションとして直結していないのだ。要するにステアリングを通して手の平に路面状況が伝わってこないのだ。ステアリングレスポンスは、穏やかでだれがドライブしても優しいセッティングだ。(スポーツカーとしては問題だが・・・。)ステアリングインフォメーションであるが、中速コーナーで徐々にアクセルを開けていくと、ようやく手の平に路面からの情報が伝わってくる感じがした。まあスポーツカーに要求するステアリングインフォメーションは理想をいえば直進時からコーナー大、小を問わず、低速から高速まで路面情報が適確にステアリングを通して手の平にいい感じで伝達されることがベストなのだ。
4ATにはステアリングシフトスイッチが設けられておりスポーク下部のパドルを引くとシフトアップ、ステアリングのスポーク上部に設けたスイッチを押すとシフトダウンが可能だ。これらのスイッチは、左右に設けてあり、同様の操作が可能となっているのだが、この操作、パドルとスイッチが離れているせいか?やり難い。又、左右で同じスイッチの配置というのは意味が無いと思う。個人的にはアルファ147のパドルのみで右側でシフトアップ、左側でシフトダウンが分かりやすく操作も軽快で好みだ。
次にTypeEであるが、標準の4AT仕様に対して本革シート(パワーシート)、DSC、LSDが標準装備となる。試乗車の標準装備の本革シートとステアリングはブラック×タン仕様であったが、格段に内装の質感が向上したと感じさせる。この本革シートの方が、標準シートよりも硬質で着座感がいい。この硬質感が経年変化しなければ○だが・・・。
TypeEは、前述した標準グレードに対して本革シートの硬質感が、気持ちの問題かもしれない程度に乗り味を変化させる。シート以外の乗り味等は、標準仕様RX-8 4AT仕様と何ら変わりは無い。ステアリングインフォメーションについても今ひとつであると感じさせる点も標準仕様RX-8 4ATと変わらない。
真打に登場願おう。RX-8 TypeSである。6速MT、タイヤサイズは、225/45R18(標準仕様:225/55R16)でサスペンションはスポーツサスペンションとなる。RX-8
TypeSは標準仕様に対して、スポーツ度が高められている。
TypeSには、RX-8,RX-8 TypeEでは得られなかった適度な節度感がステアリングを通してドライバーに伝達される。又、この節度感の伝達の仕方は、決して乗り心地を損なうことなく心地良い部分だけをうまく残した形で伝達されるのでなかなか旨味がある。標準仕様と比べるとステアリングインフォメーションは、格段に向上したと言えるが、さらに濃い味が欲しいと考えさせられるところを残している。私見から贅沢を言えば、路面にステアリングが張り付いているような感覚というか、積極的に五感に訴えるセッティングが望ましいのだが・・・。
しかしながら、RX-8TypeSの乗り味は、決して刺激的ではないが、ある意味さわやかなスポーツ心を享受しながら4人が快適に移動出来る気持ちよさを提供することに成功したことは認めなければならない。この乗り味に関して言えば、RX-8TypeSは、上級スポーティーカーであると思う。
乗り味は、”ある意味さわやかなスポーツ心”と評したが、TypeSの6速ミッションは、比較的ショートストロークで剛性感があり、シフト操作を強要するスポーツ心を擽る要素を持ち合わせていた。さらに6速ミッションを駆使して”RENESIS”を5000rpm以上廻せば、シューンとストレス無く回転するロータリーの気持ちよさと若干音質を調整したエキゾーストサウンドを共に味わうことが出来るのである。
以上総括すると勝手を言わせてもらうとRX-8TypeS 6速ミッション仕様がスポーツカーの大衆化というコンセプト(これも私見で失礼します。)にはぎりぎり合致した車か。このように見ると、標準仕様のRX-8
4AT、TypeEについては、スポーツカーの衣を纏った乗用車である。この事実は、冒頭に述べたスポーツカーの大衆化をねらった物であろうと言えどもいささか論外と解釈せざるを得ない。
私は、スポーツカーを『時として人間の理性を突き破るかもしれない怪しい魅力が潜む車』つまりその車とは付き合い方を工夫しなければならない特別な存在と定義している。
さて企業は、夢だけを追っていては生き残れないことは周知の事実ではあるが、夢を追求する純粋さを忘れた企業には魅力はない。マツダさんにはFD3S、ユーノス・ロードスターへの純粋さを決して置き去りにはしないで欲しい。
最後にマツダの技術屋さんのロータリーエンジンに対する飽くなき情熱が噂の次期RX-7誕生への原動力となることを心から期待して筆を置く。
|