1927年、アッサル・ガブリエルソンとグスタフ・ラーソンという二人の若き創業者によってボルボの歴史は、幕を開けた。ボルボと言えば、真っ先に浮かぶのが『セーフティ』であるが、創業者の一人アッサル・ガブリエルソンは、「車は人によって運転されることから常に安全でなければならない」と語り、それをボルボの設計の基本においた。
この設計思想は、今回試乗したVOLVO S60 T-5にも脈々と受け継がれているのである。
安全装備に対する装着例をあげると全5席に、プリテンショナー付3点式イナーシャリールシートベルトを装備(衝突時に80mm程引き戻す)、衝撃の強さに応じて膨張の度合いを2段階としたデュアル・エアバック(運転席:標準装備,助手席:オプション)、側面衝突時を考慮したサイド・エアバック(サイド・エアバックを市販車において世界で初めて採用したのは、ボルボである。)+インフレータブルカーテン(頭部側面衝撃吸収エアバック)、後方衝突に際しては、WHIPS(後部衝撃吸収リクライニング機構付フロントシート:跳ね返りのショックを軽減し、むち打ち症防止へ配慮)、DSTC(ダイナミック・スタビリティ&トラクション・コントロールシステム)等である。その他ボディに関しては、衝撃吸収バンパー,ケージ/クラッシャブル組み合わせ構造,SIPS(側面衝撃吸収システム)等が採用されている。
ここで参考に日本車の主な安全装備の歴史(2002TOKYO MOTOR SHOW日本自動車技術発達史より抜粋)を紐解いて見てみると1967年衝撃吸収車体構造、1967年コラプシブルステアリング(衝撃吸収ステアリングポスト)、1973年エネルギー吸収バンパー、1987年運転席SRSエアバック、1990年助手席SRSエアバック、1990年シートベルトプリテンショナー、1990年サイドドアビーム、1993年世界初後席SRSエアバック、1995年横滑り防止システム(スタビリティーコントロールシステム)、1996年運転席・助手席SRSサイドエアバック、1997年後席サイドエアバック、1998年カーテンエアバック、1998年ムチ打ち症軽減ヘッドレストとなっている。
日本車にもここ1〜2年前からフロント,サイド,カーテンエアバックがセットで標準装備されるようになり安全への配慮を重視する傾向になってきた。これは歓迎すべきことである。しかしながら、安全装備に対する日本車の対応はともすると商業主義優先となりがちで世間からの声が大きくなるのを待って、ようやく採用に踏み切るケースが散見されたと言えないだろうか?メーカー独自のフィロソフィーをもって進めてきたボルボの様な純粋さは、残念ながらない。
それゆえに21世紀の日本の各自動車メーカーには、人への優しさを中心に据えた独自のフィロソフィーを確立して欲しいと私は期待するのである。
さて、エクステリアであるが全長4575mm,車幅1815mmは、BMW3シリーズ,AudiA4よりも大柄で存在感のあるボディーである。リヤビューは、大型のテールランプの採用とテールランプ上部のボディー両サイドが大きく絞られており一目でS60と分かる個性的なデザインだ。
インテリアは、一言で表現すると『几帳面』である。刺激的とかファンであるとかそういう感覚は、一切なく『ドライビングに生真面目に集中してください。』というメッセージが聞こえてきそうなインテリアなのである。セーフティを謳うボルボに相応しいとも言える。
変り種はシートで、この設計には整形外科医のグループが参画し、長距離ドライブにおける疲労を軽減させるシートになっているという。
VOLVO S60の車両本体価格は、\520,0000(01/10メーカ公表価格)である。
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ROAD IMPRESSION
まずシートの作動音であるが、BMW、Audiと比較してしまうと見劣りするといっておく。
シートのすわり心地は、硬い部類に入ると思うという感想のみで、整形外科医が設計に参画した成果である長距離ドライブにおける疲労軽減効果については、15分間の試乗時間の中では残念であるが評価することは出来ない。
S60 T-5の加速感は、僅かなアクセルワークに対しても力感に溢れるもので軽快な走りが可能だ。市街地走行では、アクセルワークを抑えることに神経を使わなければ、容易に法定速度を超えてしまうと言っておく。又、ターボ仕様にありがちな段付の有るいかにもターボを誇示する感覚は皆無といってもいい。これは、低回転(T-5は、2400rpmから最大トルク33.7Kg-mを発生する。)から最大トルクを発生するセッティングが功を奏していると思う。ちなみにS60のターボ仕様は、試乗車T-5のハイプレッシャーターボ(250PS,33.7Kg-m)とライトプレッシャターボ(200PS,29.1Kg-m)とがある。
乗り心地であるが、かなり硬い。この硬さは、古典的ともいえるものでボディ全体へ直接的に路面の振動が伝わってくる感じだ。T-5は、走りを意識したモデルとはいえ、セダンの範疇を超えたかなり過激な乗り味であると報告しておく。
ステアリングレスポンスについても僅かな舵角に対して鋭く反応するセッティングで、これも又、セダンの範疇を超えたレベルだ。S60
T-5が他グレードに対してロック・ツー・ロックの回転数を10%低めていることからVOLVOのコンセプトに忠実な結果であると言える。但し、鋭いステアリングレスポンスに反して、ニュートラル付近におけるステアリング操作に気を使うことは一切なく直進状態を維持することは、容易だ。
一点気になることを申し上げるが、ギヤトロニックというマニュアル操作感覚でATのシフトポジションを選択できるシステムについてだが、これにはがっかりした。
3速から2速へシフトダウンした時を例にお話するが、大変レスポンスが悪く、かつ2速へシフトダウンした際のショックが大きく、昨今の良く出来た同様のシステムの中にあって見劣りすると言わざるを得ない。この車固有のものかは別として、是非改善すべき課題であると申し上げておく。せっかくエンジン、ステアリングレスポンス、サスペンション(乗り味は古典的であり、好みが分かれるかもしれないが・・・)のバランスが良好なのだから、なお更である。
ある車関係の雑誌の中で、BMWからS60への乗り換えが多いという記事を読み、私はいささか混乱した。車の乗り味が明らかに異なる車種への乗り換えだからだ。ところが、ユーザー心理は実は別のところにあり、それはひょっとしたらブランド志向にあるのかもしれないと考えた。この推理が当たっているとすると車(特にブランドカー)の乗り味までを含めて詳細に評価して乗り換える人は、意外に少ないのかもしれない。つまり大多数のユーザーは、評論家さんの走りに関する専門的な評価には殆ど耳を傾けることが無く?そんな能書きは、初めから車選定時の基準から除外しているということにはならないか?もし推測どおりであるとしたら評論家さん達に取ってみれば、なんとも寂しい話だ。私は、ここで一つの提言をしておきたいのだがブランドカーだからすべて○という評価をしないことだ。あくまで公平な目で評価すれば、評論家としての存在意義が少なからず出てくるのではないだろうか。
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