初代PORSCHE911は、38年前の1964年にリリースされた。1964年すなわち昭和39年は、東京オリン
ピックが開催され、新幹線が東京ー大阪間に開通したという日本にとっても実は記念すべき年であった。この初代新幹線は、200Km/hの最高速度を誇っていたわけだがPORSCHE911は、それを車で軽々と達成していたということになる。日本の場合は、こと車の制限速度に関していえば、1969年に東名高速道路が開通し、ようやく80Km/h〜100km/hで巡航して良いとのお墨付きが出たとはいうものの現在までこの合法スピードに変更はないわけだから市販車の置かれた環境の差は、歴然としている。このことから常に日本車の開発(特にスポーツカー開発)にはある種の後ろめたさ(そこまでは必要ないのではないかという市場の声)が付きまとっているように思えてならない。但し、こういった厳しい環境下の中で日本のスポーツカーは健闘していることを弁護しておく。こういった意味において、PORSCHE911は大変恵まれた環境の中でスポーツカーとしての使命感をもって極めて純粋に着実に進化(深化)の過程をたどることは、しごく自然な行為であると解釈出来るし、これに携わる技術者は幸せであろう。
こうして極めて純粋に進化したPORSCHE911Carrera、2002モデルを紹介しよう。
さて、2001モデルとの外観上の相違点であるが、アルミホイールに10スポークの17インチカレラUホイールが新たに採用された点を除き、PORSCHEを知り尽くしている人間であれば別だがぱっと見では分からない程に巧妙である。外観の変更点は、ヘッドライト廻り(911Turboと同デザインを採用),最適化されたインテークデザインを採用したフロントマスク,リヤ回り(フロント&リヤ共に01モデルのカタログと並べてにらめっこをしないとなかなか分からない。)である。これらのデザイン変更の中には、空力特性の見直しが含まれる。(ノーズ,テール,アンダーボディーパネルの改良)
次にエンジンであるが、排気量は3387ccから3595ccとなり最高出力で20PS(300PS→320PS),トルクで2Kg-m(35.7Kg-m→37.7Kg-m)高められた。又、今まで911TurboとGT2のみにしか採用されなかった可変バルブタイミング機構にリフト機構を備えたバリオカムプラスが装備されている。更に5速ティプトロニックSのギヤ比が見直され、1速〜3速では6速マニュアルのギヤ比(最終減速比を含めたトータルギヤ比)よりも低められた。0〜100Km/h加速タイムは、カタログデータによれば6Mで5.2S→5.0S,5速ティプトロニックSで6.0S→5.5Sとなっている。ちなみに最高速度は、6Mが280Km/h→285Km/h,5速ティプトロニックSが275Km/h→280Km/hに引き上げられた。(いずれもカタログ値)
内装では、01モデルでオプション設定であった3本スポークステアリングホイールとオンボードコンピュータが標準装備となり、カップホルダーとロック付きグローブボックスが新規装備された。
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ROAD IMPRESSION
シートに着座すると最初に感じるのは硬いという印象なのだが、これが不思議なことにただ硬いだけではなく、そっと下から支えてくれているという感覚を伴うので、この硬さが心地よさとなるのである。長時間のドライブを文字通りしっかりとサポートしてくれる最高のシート感覚であると断言しておく。
シート前後調整は手動、リクライニングは電動である。リクライニング調整時の速度は適切であり微調整も可能である。作動音についてはドイツ車らしく出来が良く、耳障りな音は皆無であった。
スタート前にエンジンを煽ってみると背中に心地よい鼓動が伝わり、リヤに元気な生き物が確かに存在することを認識させてくれた。
セレクトレバーをDレンジへシフトし、やや固めのアクセルペダルを僅かに踏み込み極めてスローに転がしてみたが、そのほんの約5mの間で『これは只者ではない!』と感じさせるのである。
なにが『只者ではない!』と感じさせるのだろうか?タイヤからの振動は、サスペンション、ボディー&ステアリングを介してドライバーへと伝達される分けだが、この伝達経路の作りこみ(ドライバーにはしっかりとステアリングインフォメーションを伝えた上で、いかに心地よいものだけを残してドライバーの体へ伝達するか?という技術の蓄積)が他車とは並外れて優れているといわざるを得ない。
さて、試乗コースへ出てからの乗り心地であるが、前述した『只者ではない!』と感じさせたもののまさにその延長線上にあるもので、路面からのインフォメーションはきっちりとステアリングを通してドライバーの手の平に伝達されながら、路面からの不快な振動はドライバーには一切伝達されない(不快ではない形で心地よく入力される。)という、実に快適な乗り味が提供されるのである。
ステアリングインフォメーションについて付け加えれば、まさに精度の高さを感じさせるもので僅かなステア操作にもリニアにレスポンスしてくれる。但し、例え角速度を増してステア操作したとしてもリニアなレスポンスとは裏腹に姿勢変化は、驚くほど穏やかである。例え危険回避の状態に陥ったケースにおいても極めて安全性の高いステアフィールではないかと思う。さらに驚くべきところは、直進時及びコーナリング時に関わらずドライバーの手の平にタイヤの状態が明確に信号として常に伝達されていることで、この感覚こそ車を操っているこの上ない喜びとなり、無類の安心感に繋がるのである。このステアフィールは、極低速(30Km/h程度)からでも感じ取ることが出来、速度に比例するものではないところがまさしくPORSCHEといえるところではないか。
ティプトロニックSは、セレクトレバーをDから左にあるM(マニュアルモード)の方向に倒しステアリング上のスイッチ+UP,−DOWNで行う。例えセレクトレバーがDのままでもスイッチ操作を行えばマニュアルモードに切り替わり、コーナー手前での急なシフトダウンも可能である。ティプトロニックSでの変速フィーリングは、通常のATでよくあるシフトアップ時にすべりを伴うタイムラグ的な症状は皆無で、限りなくスムーズにシフトアップしていく。シフトダウンについても出来の悪いATでよくあるタイムラグによる変速ショック等とは全く無縁で瞬時に限りなくスムーズにシフトダウンは完了する。ティプトロニックSは、十二分にスポーツ走行が楽しめる世界屈指のATシステムと断言できる。
320PSの実力を市街地走行でフルに試すことは、もちろん出来なかったわけだが、その片鱗をお伝えすれば、本線進入時にトライしたアクセル7割程度ではあったが、それでも後ろからグイグイ押し出される加速フィールは豪快であり刺激的であったと報告しておく。
ブレーキフィーリングについては市街地走行の中だけで論ずることは、ナンセンスと思いやめておく。キャパシティーの高さを市街地走行のみでは語れないという意味である。
さて、妥協という言葉は、PORSCHEには存在しない。常に最善を尽くし、最良のものを世に送り出すことを使命にしているPORSCHEの純粋さに心打たれずにはいられない。
技術と歴史に裏打ちされたPORSCHEの進化(深化)にライバルは存在しない。存在するとしたら、それはまさにPORSCHE自身であり、そこに強烈なオーラを私は感じるのである。
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